慢性疾患コラム

2025.07.14 自律神経失調症

【自律神経失調症外来】がんと自律神経──最新医学が示した「勝てる身体」の条件とは?

「がんと自律神経が関係している」と聞くと、意外に感じる方も多いかもしれません。けれども、2025年に世界的な医学誌『Nature Reviews Cancer』に掲載された最新のレビュー論文では、がんと免疫、そして交感神経・副交感神経といった自律神経系の密接な関係が詳しく解説されています。

私たちの体には、自律神経という無意識に働く神経ネットワークがあります。交感神経は「戦う・逃げる」ために身体を興奮させる神経で、副交感神経は「休む・癒す」ために身体を鎮める神経です。よく「副交感神経が高い方が健康に良い」と言われますが、実は一方が優位すぎる状態が続くことは、がん免疫にはマイナスに働く可能性があるのです。

この論文によれば、副交感神経が長期間にわたり優位な状態が続くと、がんと闘うための免疫(とくにNK細胞やCD8+T細胞)の活性が低下する可能性があるとされています。副交感神経の刺激は、抗炎症シグナル(アセチルコリン経路)を通じて炎症性サイトカインの放出を抑え、体を鎮めてくれます。しかしそれが「持続的に効きすぎる」と、免疫の“攻撃力”まで抑えてしまうことがあるのです。

一方で、交感神経の過剰な刺激もまた問題です。ノルアドレナリンの過剰分泌は、免疫細胞の疲弊や免疫抑制細胞(TregやMDSC)の誘導を促し、がん細胞にとって有利な環境をつくってしまいます。

このように、がん免疫にとって大切なのは、「交感神経か副交感神経のどちらかが優れている」という話ではありません。必要なときに交感神経が働き、必要なときに副交感神経が働く──この“切り替えの柔軟性”こそが、免疫力の土台になるのです。

この神経の“切り替え力”は、呼吸・睡眠・感情・生活リズムなどによって大きく影響を受けます。実際に、心拍変動(HRV)という指標を使うと、自律神経の状態やそのバランスを客観的に見ることもできます。


🩺 医師の視点から

臨床の現場に立つ医師として、自律神経とがん免疫の関係は、従来よりもはるかに深い領域に入り始めていると感じています。

今回ご紹介した論文は、がん免疫学における“神経の役割”を明確に示し、「免疫だけを見ていては足りない」という新たな視座を私たちに与えてくれました。

特に印象的だったのは、副交感神経が“癒し”や“抗炎症”という従来のイメージだけでなく、その持続的な優位状態が、がんと闘うための免疫反応を抑制する可能性があるという点です。

実際に、がん患者さんの中には「がんと闘う気力が湧かない」「感情がフラットで何も感じない」といった、ある種“副交感神経優位的な停滞”が見られることがあります。

このような状態では、治療への意欲や回復力にも影響が出やすく、神経系のリズム(交感・副交感の動的切り替え)を回復させる介入が必要ではないかと私は考えています。

私の臨床では、呼吸法、HRV測定、光・音・体性感覚刺激、そして深層心理へのアプローチなどを組み合わせて、自律神経と感情・免疫の“流れ”を見直すような統合的なサポートを行っています。


🌱 まとめ

がんという病と向き合うには、最新の治療に加えて、「自分の身体の内側にあるリズム」を見直すことも重要です。

副交感神経=良いもの、という単純な図式ではなく、「今、自分の神経は適切に切り替わっているか?」という視点を持つことが、治療を支えるもう一つの土台になるかもしれません。

治療とリズム。

戦う力と休む力。

両方を使いこなせる“しなやかな身体”を、これからのがん医療は求めているのかもしれません。

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