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2026.03.14 新着情報

「休んだはずなのに疲れが取れない」は脳のせいかもしれない――DMN(デフォルトモードネットワーク)が引き起こす身体疲労

 

「何もしていないのに疲れた」という経験、ありませんか?

 

仕事が終わって帰宅し、ソファに座ってため息をつく。 「今日、大きなことは何もしていないのに……どうしてこんなに疲れたんだろう」

 

そんな経験はありませんか? 体を激しく動かしたわけでもなく、残業したわけでもない。それなのに、どっと疲労感が押し寄せてくる。実はこの「不思議な疲れ」の背景に、脳の中で静かに起きているある”過剰活動”が関係しているかもしれません。

 

今回ご紹介するのは、**デフォルトモードネットワーク(DMN:Default Mode Network)**と自律神経のバランス、そして身体疲労の関係についてです。2025年4月に国際学術誌『Biology』(MDPI)に発表された最新のレビュー論文「The Journey of the Default Mode Network: Development, Function, and Impact on Mental Health」をもとに、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。

 


デフォルトモードネットワーク(DMN)とは?――脳の「アイドリング状態」

 

まず、デフォルトモードネットワーク(DMN)について簡単にご説明します。

 

脳は、外側の世界に集中しているとき(仕事・会話・運動など)だけ活発に動いているわけではありません。何もしていないとき、つまりぼんやりと休んでいる状態でも、脳の特定の領域は活発に動き続けています。この「休んでいるはずなのに活動している脳のネットワーク」が、デフォルトモードネットワーク(DMN)です。

 

デフォルトモードネットワーク(DMN)は、脳が安静にしているときに活性化する脳内ネットワークです。自己内省・感情処理・社会的相互作用・心的探索といった機能に深く関わっており、進化的にも重要な役割を担っていると考えられています。 PubMed Central

 

DMNが活動する具体的な場面は、たとえば次のようなときです。

  • 過去の失敗を何度も思い返しているとき
  • 「明日の会議、うまくいくだろうか……」と未来を心配しているとき
  • 「あのとき、こう言えばよかった」と後悔を繰り返すとき
  • 何もせず、ただぼんやりしているとき(いわゆる”マインドワンダリング”)
  •  

デフォルトモードネットワーク(DMN)は、自分の内側に意識が向いているときに特に活性化します。夢想(デイドリーミング)、過去の振り返り、未来の想像、あるいは他者の気持ちを考えているときなどがその典型です。 Psychology Today

 


DMNが「過剰活動」するとどうなるか?

 

健康な状態では、DMNは必要に応じてオンとオフを切り替えます。何か課題に集中するときには別の脳回路(課題遂行ネットワーク)が前面に出て、DMNはいったん静まります。ところが、ストレスや慢性的な不安があると、このオン・オフの切り替えがうまくいかなくなり、DMNが過剰に活動し続けてしまうのです。

 

デフォルトモードネットワーク(DMN)が過剰に活動すると、自己参照的な思考が強まり、うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関連するネガティブで混乱した思考パターンが出現しやすくなります。 O8t

 

つまり、「考えすぎ」「くよくよしがち」「心配性」という状態は、脳のレベルではデフォルトモードネットワーク(DMN)の過剰活動として現れているのです。

 


DMNと自律神経の密接なつながり

 

ここからが今回の本題です。デフォルトモードネットワーク(DMN)の過剰活動は、なぜ「体の疲れ」につながるのでしょうか?

 

そのカギは、自律神経系(じりつしんけいけい)との深い解剖学的・機能的つながりにあります。

デフォルトモードネットワーク(DMN)の前部領域、特に前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ:ACC)や内側前頭前野(ないそくぜんとうぜんや:mPFC)は、自律神経系および神経内分泌プロセスの調整に深く関与しています。これらの領域は、体の炎症状態に関する信号を双方向でやり取りする重要なハブとして機能しています。 PubMed Central

 

さらに、デフォルトモードネットワーク(DMN)は扁桃体(へんとうたい)とも密接に連絡しています。

扁桃体は感情処理・情動記憶の中枢であるとともに、情動的な刺激に応じて自律神経系および内分泌神経系を調整する役割も持ちます。 PubMed Central

 

つまり、「不安な気持ち → 扁桃体が興奮 → デフォルトモードネットワーク(DMN)の過剰活動 → 自律神経の乱れ」という連鎖が生まれやすいのです。

 

自律神経が乱れると、体の中では何が起きるのでしょうか。交感神経が過剰に優位になると、心拍数の上昇・血圧の上昇・筋肉の緊張・胃腸の働きの低下・睡眠の質の悪化などが起きます。こうした状態が慢性的に続くと、体全体のエネルギー消費が増え、**「考えているだけなのに体が疲れる」**という状態が生まれるのです。

 


脳は「休んでいるとき」も多くのエネルギーを使う

 

ここで少し意外な事実をお伝えします。脳はどの臓器よりもエネルギーを消費します。体重の約2〜3%しかない脳が、全身の基礎代謝エネルギーの**約20〜25%**を消費するといわれています。そして、デフォルトモードネットワーク(DMN)が活発に働いているとき、この消費はさらに大きくなります。

 

デフォルトモードネットワーク(DMN)の過剰活動は現実的な影響をもたらします。マインドワンダリング(心ここにあらずの状態)はタスクに集中することを難しくし、脳が「集中しようとする状態」と「さまよってしまう状態」を繰り返す非効率な動作を生み出します。この状態でタスクをこなそうとすると、通常よりも多くのエネルギーを消費してしまいます。 Health Rising

 

つまり、「ぼーっと悩んでいるとき」や「グルグルと同じことを考え続けているとき」は、脳は猛烈にエネルギーを消費しているのです。体が疲れるのは当然といえます。

 


DMNの過剰活動が引き起こす「悪循環」

 

デフォルトモードネットワーク(DMN)の過剰活動は、それ単独で終わりません。次のような悪循環を生みやすいとされています。

 

① 考えすぎ → 睡眠の質の低下

 

デフォルトモードネットワーク(DMN)が過活動になると、自己参照的な思考が続き、脳がスムーズに睡眠状態へ移行できなくなります。研究では、デフォルトモードネットワーク(DMN)の過活動と睡眠の質の低下の間に有意な相関が認められており、DMN内の過剰な結合が睡眠障害の予測因子になる可能性が示されています。 Rob Orman Coaching

睡眠の質が落ちると、翌日の脳の疲労回復が不十分になり、さらに不安や過剰思考が強まります。

 

② 考えすぎ → うつ・不安の悪化

 

うつ状態にある人では、後悔・失敗・恥・怒りへの反芻(はんすう)が見られ、これがデフォルトモードネットワーク(DMN)内の特定領域の結合強化と関連していることが報告されています。 Psychology Today

うつや不安が強まると、さらに考えすぎるようになり、デフォルトモードネットワーク(DMN)の活動が増す……という負のサイクルが形成されます。

 

③ 考えすぎ → 慢性的な身体症状

 

コルチゾール(ストレスホルモン)の分泌が頻繁になったり正常に機能しなくなったりすると、視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)の慢性的な調節不全が生じます。その結果、神経系のアンバランスが生まれ、持続的な身体症状や生理的な乱れが引き起こされます。 Frontiers

原因不明の倦怠感、頭痛、肩こり、胃腸の不調……これらの慢性的な身体症状の背景に、デフォルトモードネットワーク(DMN)の過剰活動が潜んでいる可能性があるのです。

 


自律神経を整えるために――今日からできること

 

デフォルトモードネットワーク(DMN)の過剰活動を抑え、自律神経を整えるために、科学的に有効とされているアプローチをいくつかご紹介します。

 

🌿 マインドフルネス(瞑想)

デフォルトモードネットワーク(DMN)の活動を抑えるために最も研究が蓄積されているのがマインドフルネスです。「今ここ」に意識を向ける練習を繰り返すことで、DMNの過剰なさまよいを落ち着かせ、自律神経バランスの改善が期待できます。1日10〜20分の実践でも効果があるとされています。

 

🌬️ 呼吸法

自律神経のバランスを整えるための呼吸法として、「4-7-8呼吸法(4秒で吸い、7秒止め、8秒で吐く)」や「ボックス呼吸法(4秒で吸い、4秒止め、4秒で吐き、4秒止める)」などが有用とされています。 Health Rising

 

🚶 適度な身体活動

軽いウォーキングや散歩は、デフォルトモードネットワーク(DMN)の過剰活動を抑え、前頭前野(ぜんとうぜんや)の働きを回復させる効果があるとされています。「考えすぎてしんどいな」と感じたら、まずは外に出てみることをおすすめします。

 

🌳 自然の中での休息

研究では、自然の中で過ごすことがデフォルトモードネットワーク(DMN)を健全な形で活性化し、認知機能の回復や感情的バランスの改善につながることが示されています。

 


まとめ――「考えすぎ」は脳の問題であり、体の問題でもある

 

「考えすぎると疲れる」のは、根性論でもなく、気の持ちようの問題でもありません。脳の神経ネットワーク(デフォルトモードネットワーク:DMN)が過剰に活動し、自律神経を乱し、全身のエネルギーを消耗させてしまう、れっきとした脳・神経・身体の問題です。

 

最新の神経科学は、心と体がいかに密接につながっているかを、日々明らかにしています。原因のわからない疲れ、なんとなく体がだるい、眠れない……そのような症状が続くときは、背景にデフォルトモードネットワーク(DMN)の過剰活動や自律神経の乱れが潜んでいる可能性があります。一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。

岡崎ゆうあいクリニックにご相談ください。


参考論文:Ramos-Vera C, et al. “The Journey of the Default Mode Network: Development, Function, and Impact on Mental Health.” Biology. 2025;14(4):395. MDPI.

 
 
 
 
 
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