慢性疾患コラム

2026.03.12 高血圧

健康診断で”要注意”と言われたけど…自覚症状がない高血圧が実は一番こわい理由

 

「血圧が少し高めですね」と健康診断で言われたことはありますか?

でも、頭痛もないし、めまいもない。体はいたって普通に動いている。「まあ大丈夫かな」と、再検査の紙をカバンの奥にしまったままにしていませんか?

 

実はそれが、一番危ない状態かもしれません。

高血圧(高血圧症)は世界中で「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれています。自覚症状がほとんどないまま静かに血管や臓器を傷つけ続け、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞という形で牙をむく病気だからです。今回は、その「自覚症状がないこと」こそが最大のリスクである理由を、わかりやすくお伝えしていきたいと思います。

 


🔍 高血圧は日本人にとってどれほど身近な病気?

まず、数字の大きさに驚いてください。

日本では現在、高血圧症の患者さんは推計約4,300万人に上ると言われています。これは日本の成人人口のおよそ3人に1人という規模です。さらに深刻なのは、その中で治療を受けている方は約1,200万人にとどまるという事実です。つまり、高血圧であることを知りながら、または知らないまま、適切な管理を受けずに生活している方が3,000万人以上いるという計算になります。

 

世界規模で見ると、2023年の世界保健機関(WHO)の報告では、世界の成人の3人に1人が高血圧症であり、高血圧症と診断された方のうち有効に管理できているのは5人に1人以下に過ぎないというデータも示されています。

 

高血圧の基準は、収縮期血圧(上の血圧)が140ミリメートル水銀柱以上、または拡張期血圧(下の血圧)が90ミリメートル水銀柱以上の状態が続くこと(日本高血圧学会の基準)。健康診断でこの数値に引っかかっても、「でも元気だし…」と感じてしまう方が多いのは、それだけ自覚症状がないからです。

 


💔 症状がないのに、なぜ危険なの?

高血圧を「サイレントキラー」と呼ぶのには明確な理由があります。血圧が高い状態が続くと、体の中では静かに、しかし確実に、心臓・脳・腎臓・血管・目といった重要な臓器へのダメージが蓄積されていくからです。

 

❤️ 心臓への影響

高血圧が続くと、心臓は常に高い圧力に逆らって血液を送り出さなければなりません。これは、心臓が毎日重いものを持ち上げ続けるような状態です。その結果、心臓の筋肉(特に左心室)が肥大化する左心室肥大が起こります。

 

左心室肥大が進むと、心臓の動きが硬くなり、十分な血液を全身に届けられなくなります。これが**心不全(心臓が十分に機能しなくなる状態)**です。高血圧が始まってから心不全に至るまでの期間は、平均で約14年という研究データもあります。また、高血圧症によって心不全を発症した方の5年生存率は35〜50%程度とも報告されており、非常に深刻な状態です。

 

さらに、高血圧は血管の内側の壁(内皮)を傷つけ、動脈の壁に脂肪やコレステロールがたまる動脈硬化を引き起こします。これが心臓の血管(冠動脈)で起これば、心筋梗塞(心臓の筋肉が壊死する状態)につながります。

 

🧠 脳への影響

高血圧が脳に与える影響も非常に深刻です。収縮期血圧(上の血圧)が10ミリメートル水銀柱上昇するごとに、脳梗塞・脳出血(まとめて脳卒中)のリスクが約25%上昇するというデータがあります。

 

また、2024年12月に米国心臓協会(アメリカン・ハート・アソシエーション)が発表した最新の研究では、高血圧の罹患期間が長いほど脳卒中リスクが累積的に高まることが、27,310名を対象とした追跡調査(平均追跡期間12.4年)で明らかになりました。

 

具体的には、高血圧の期間が5年以内の方でも正常血圧の方に比べて脳卒中リスクが31%高く、6〜20年では50%高く、21年以上では67%高くなっていました。つまり、高血圧を放置すればするほど、毎年リスクが積み上がっていくのです。

 

🫘 腎臓への影響

腎臓は血液をろ過して老廃物を体の外に排出する、精密なフィルターのような臓器です。高血圧が続くと、腎臓の細い血管が傷み、ろ過機能が低下します。これが慢性腎臓病(慢性的に腎臓の機能が低下した状態)を引き起こし、重症化すると透析(人工的に血液をろ過する治療)が必要になることもあります。腎臓病はさらに血圧を上げてしまうため、悪循環に陥りやすいのも特徴です。

 

👁️ 目への影響

目の奥には細い血管が無数に集まっています。高血圧によってこれらの血管が傷つくと、**高血圧性網膜症(目の網膜が障害される状態)**が生じます。視力の低下や視野の欠損を引き起こすこともあり、放置すれば失明にいたるケースもあります。

 


🔬 2024年最新研究が示す「30年リスク」という新しい視点

2024年7月、医学誌『Hypertension(ハイパーテンション)』に、高血圧に関する非常に重要な研究が発表されました。

米国アラバマ大学バーミンガム校のポール・マントナー博士らのチームが1,703名の第1度高血圧症(収縮期血圧130〜139ミリメートル水銀柱)の方を対象に、「10年リスク計算ツール」と「30年リスク計算ツール(PREVENT)」の両方で心臓発作・脳卒中・心不全のリスクを比較しました。

 

✅ 研究のポイント:「今は大丈夫」でも30年後は?

従来の10年リスク計算ツールでの平均リスクは5.4%でした。ところが、新しいPREVENT計算ツールで30年後のリスクを推計すると、全く異なる景色が見えてきました。

特に60歳未満で「10年リスクは低い」と判定された方の多くが、30年後には心臓発作・脳卒中・心不全のいずれかを経験する高リスク群に属することが明らかになったのです。

 

✅ この研究が伝えたいこと

マントナー博士はこの結果を受けて、次のように述べています。「短期的なリスクが低くても、長期的には高いリスクを抱えている人が非常に多い。今後は10年と30年の両方の視点でリスクを患者さんと共有し、早期治療の意義を伝えることが重要だ」と。

これはとても大切なメッセージです。「今のところ元気だから大丈夫」という安心感は、高血圧においては危険な錯覚になりえます。若いうちから、あるいは比較的血圧が軽度のうちから取り組むことで、30年後の脳卒中や心不全を防げる可能性が大きく広がるのです。

 


✅ 高血圧に気づくためにできること

高血圧の怖さは「気づきにくいこと」にあります。だからこそ、定期的な血圧測定が最大の武器になります。

〈家庭血圧の目安〉

家庭での血圧測定では、上の血圧(収縮期血圧)が135ミリメートル水銀柱以上、または下の血圧(拡張期血圧)が85ミリメートル水銀柱以上が続く場合は、医療機関への受診をお勧めします。

正しく測るには、①測定前5分は安静にする、②測定は毎朝起床後と就寝前に2回ずつ、③1〜2分間隔を置いて2回測り平均値を記録する、というポイントを守ることが大切です。

 

〈食事・生活の見直し〉

塩分は1日6グラム未満を目標に。日本人の平均塩分摂取量は1日約10グラムといわれており、まずは「薄味に慣れる」ことから始めてみてください。週に150分以上の中等度の有酸素運動(早歩き・水泳・自転車など)も血圧低下に効果的です。

 


🏥 「要注意」のまま放置しないでください

健康診断で「血圧が高め」と言われたその日から、血管へのダメージは少しずつ積み重なっています。症状がないことは「安全」を意味しません。むしろ、症状がないからこそ、気づいたときに専門家の目でしっかりと確認してもらうことが大切です。

「どのくらいの血圧なら治療が必要ですか?」「家で測る血圧と病院の血圧が違うのですが…」「薬を使わずに下げる方法はありますか?」…どんなご質問でも、一緒に考えていきましょう。

岡崎ゆうあいクリニックにご相談ください。

 


📚 参考文献:Muntner P, et al. 10-Year and 30-Year Predicted Cardiovascular Disease Risk in US Adults With Stage 1 Hypertension. Hypertension. 2024.
Davis BR, Hennekens CH, et al. New Clinical Challenges in Hypertension Management: The ‘Old Silent Killer’ Is Alive and Well. The American Journal of Medicine. 2024.
米国心臓協会(American Heart Association)「Stroke risk may climb as the years of living with high blood pressure add up」2024年12月.

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