慢性疾患コラム

2026.03.12 睡眠時無呼吸症候群

いびきもないのに睡眠が浅い?上気道抵抗症候群(UARS)が引き起こす”気づかない睡眠障害

 

「毎晩きちんと寝ているのに、朝起きると体が重い」 「睡眠の検査を受けたけれど、とくに異常はないと言われた」 「不眠や疲労感が続くので心療内科に通っているが、なかなかよくならない」

 

そんなお悩みをお持ちの方に、ぜひ知っておいていただきたい病気があります。それが「上気道抵抗症候群(Upper Airway Resistance Syndrome:UARS)」という睡眠障害です。

 

あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、実はこの病気、不眠・慢性疲労・気分の落ち込みなどの症状を引き起こしながら、通常の睡眠検査では見逃されやすいという、非常にやっかいな特徴を持っています。今回はこの上気道抵抗症候群(UARS)について、最新の研究を交えながら詳しくご説明します。

 


😴 上気道抵抗症候群(UARS)とは?睡眠時無呼吸症候群(SAS)との違い

 

まず、上気道抵抗症候群(UARS)をひと言で表すと、「のど(上気道)が完全には塞がらないけれど、空気が通りにくくなることで、眠りが繰り返し浅くなってしまう病気」です。

 

もう少しくわしく説明しましょう。眠っているとき、のど周りの筋肉は緩みます。このとき気道が狭くなり、呼吸しようとするたびに強い力が必要になります。その「呼吸努力」が脳への刺激となり、眠りが浅い状態(覚醒反応)を繰り返し引き起こすのです。この覚醒反応のことを「呼吸努力関連覚醒(Respiratory Effort-Related Arousal:RERA)」と呼びます。

 

ここで重要なのが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)との違いです。睡眠時無呼吸症候群(SAS)では、気道が完全に塞がって呼吸が止まり、血液中の酸素が低下します。一方、上気道抵抗症候群(UARS)では、気道は完全には塞がらないため、血液中の酸素は正常範囲を保っています(多くの場合、血中酸素飽和度は92%以上)。また、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(無呼吸低呼吸指数:AHI)も5回未満であることがほとんどです。

 

この「酸素が下がらない」「無呼吸の回数が少ない」という特徴が、通常の睡眠検査では異常なしと判断されやすい最大の理由です。しかし実際には、眠りの浅さや睡眠の質の低下は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)に劣らないほど深刻なのです。

 


🔬 最新研究が示す「見逃される睡眠障害」の実態

 

上気道抵抗症候群(UARS)の患者さんの実態については、スタンフォード大学の睡眠医学の権威であるギルミノー教授らが発表した米国胸部学会誌(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine)に掲載された研究が、多くの重要な事実を明らかにしています。

 

この研究では、上気道抵抗症候群(UARS)と診断された400症例の詳細な特徴が報告されました。そのなかでも特に興味深い「純粋な上気道抵抗症候群(UARS)」の患者93名のデータをご紹介します。

 

✅ 患者の特徴:実は”女性・若年・痩せ型”が多い

 

  • 平均年齢:38 ± 14歳(比較的若い世代に多い)
  • **女性の割合が56%**と過半数を占める(睡眠時無呼吸症候群(SAS)は圧倒的に男性が多いのとは対照的)
  • 東アジア系が32%(日本人を含むアジア人に多い可能性を示唆)
  • 平均体格指数(BMI:体重÷身長の2乗で算出する体型の指標)は23.2 ± 2.8と標準範囲内(肥満ではない)
  • 平均呼吸障害指数(RDI:無呼吸・低呼吸に加え、呼吸努力関連覚醒も含めた1時間あたりの呼吸障害回数)はわずか1.5回/時間
  • 血中酸素飽和度は95%以上を維持
  •  

つまり、標準体型の若い女性に多く、血液中の酸素も問題なく、無呼吸の回数も少ないという、”睡眠時無呼吸症候群(SAS)らしくない”特徴が揃っているのです。これが見逃されやすい最大の理由といえるでしょう。

 

✅ 顎・口腔の特徴:骨格に隠されたリスク

 

研究ではさらに、上気道抵抗症候群(UARS)患者の顎や口腔の解剖学的特徴も明らかにされました。

 

  • 口の天井(硬口蓋)が高く狭い
  • 奥歯の間の距離が正常より小さい(上顎が狭い)
  • 出っ歯(上の前歯が前方に出ている状態)が3mm以上
  • 軟口蓋の粘膜が薄く、口蓋垂(いわゆる”のどちんこ”)が短い
  • また、88%の患者に親知らずの早期抜歯歴または先天的な欠如が見られた
  •  

これらの特徴は、顎・口腔が発育の段階から気道のスペースを狭める構造になっている可能性を示しており、骨格的素因が上気道抵抗症候群(UARS)の発症に深く関わっていることを示唆しています。

 


⚠️ どんな症状が出る?見逃されがちなサインを知ろう

 

上気道抵抗症候群(UARS)の症状は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と一部重なりながらも、独自の特徴があります。

 

〈睡眠の症状〉

  • 眠りにつきにくい・夜中に何度も目が覚める(慢性不眠)
  • 朝起きても眠気や倦怠感が残り、眠った気がしない
  • 日中に強い疲労感がある(眠気というより”だるさ”)
  •  

〈体・心の症状〉

  • 頭痛(特に朝方に多い)
  • 起き上がったときのふらつき・低血圧(血圧が収縮期で90mmHg以下のこともある)
  • 手足の冷え
  • 過敏性腸症候群(腸が過敏になり、腹痛・下痢・便秘を繰り返す状態)
  • 不安感・気分の落ち込み
  • 集中力・記憶力の低下
  •  

睡眠時無呼吸症候群(SAS)では、日中の強い眠気や大きないびきが目立つのに対し、上気道抵抗症候群(UARS)では**「眠気よりも疲労感」「いびきよりも不眠」**が前景に立つことが多いのが特徴です。

 

また、長期間にわたって放置されると症状は徐々に悪化します。ある追跡研究では、未治療の上気道抵抗症候群(UARS)患者を平均4年半にわたって観察した結果、日中の倦怠感・不眠・抑うつ気分の訴えが12〜20倍に増加していたことが報告されています。また、その間に睡眠薬の処方を受けた割合が11.7%から61.7%、抗うつ薬の処方が3.2%から25.5%へと急増しており、本来の原因を見つけられないまま薬物療法だけが増えていくという残念な現実が浮かび上がっています。

 


🩺 なぜ見逃されるのか?診断の難しさ

 

上気道抵抗症候群(UARS)の診断が難しい最大の理由は、通常の簡易型睡眠検査では検出できない点にあります。

一般的なスクリーニング検査(簡易型の睡眠時無呼吸症候群(SAS)検査)は、血中酸素の低下や無呼吸・低呼吸の回数を主に測定するものです。上気道抵抗症候群(UARS)ではこれらの数値が正常範囲に収まってしまうため、「問題なし」と判定されてしまうのです。

 

正確な診断には、**終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG:一晩中、脳波・呼吸・筋肉の動きなどを詳しく記録する検査)**が必要であり、さらに「呼吸努力関連覚醒(RERA)」をきちんと評価できる解析システムが求められます。厳密には食道内圧を測定する方法が精度は最も高いとされますが、専門機関での検査となります。

 

このような診断の難しさから、上気道抵抗症候群(UARS)の患者さんは「慢性疲労症候群」「原因不明の不眠症」「線維筋痛症(全身の筋肉・関節などに広範な痛みが続く状態)」「不安障害」「注意欠如・多動症(ADHD)」などと誤診・見逃しされているケースが少なくないとされています。

 


💊 治療について:根本原因に合わせたアプローチを

 

上気道抵抗症候群(UARS)の治療は、原因と程度によって異なります。

**持続陽圧呼吸療法(CPAP:専用のマスクを通じて一定の圧力で空気を送り込み、気道を開いておく装置を使った治療)**は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と同様に有効とされていますが、上気道抵抗症候群(UARS)の患者さんはもともと感覚が鋭敏な方が多いため、適応しにくいケースもあります。

**口腔内装置(マウスピース型の下顎前進装置:眠っている間に下顎を前方に固定することで気道を広げる装置)**も有効な選択肢のひとつです。また、鼻づまりや鼻中隔(鼻の左右を仕切る壁)の湾曲、鼻甲介(鼻の内部にある突起状の構造)の腫れなど鼻の問題が原因となっている場合は、耳鼻科的な治療も効果的です。

 

日常生活でできることとしては、横向きで寝ること・アルコールや睡眠薬などの筋弛緩を促す薬の使用を避けること・規則正しい睡眠リズムを保つことなどが挙げられます。

 


「ちゃんと眠れているはずなのに、いつもだるい」「不眠の治療を受けているのになかなか改善しない」という方は、もしかすると上気道抵抗症候群(UARS)が隠れているかもしれません。まずは睡眠の専門医に相談し、適切な検査を受けることが大切です。

 

岡崎ゆうあいクリニックにご相談ください。


📚 参考文献:Guilleminault C, et al. Upper Airway Resistance Syndrome Is a Distinct Syndrome. American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine. 2000;161(5 Pt 2):S1-S9. Bittencourt LR, et al. Treatment of upper airway resistance syndrome in adults: Where do we stand? Sleep Science. 2015;8(4):199-206. PMC4608900. Palombini LO, et al. Quality of life in upper airway resistance syndrome. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2022.

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