2026.09.10 糖尿病
いびきと「もの忘れ」は関係する?【世界の最新論文から】
夜、ぐっすり眠れていますか。いびきが大きい、寝ても疲れが取れない、日中にすごく眠くなる——そんな方は「睡眠時無呼吸(すいみんじむこきゅう)」という状態かもしれません。これは眠っている間に呼吸が何度も止まってしまう病気で、いびきや日中の眠気だけでなく、実は「もの忘れ」とも関係があることがわかってきました。岡崎で内科クリニックを営む立場から、今回はその仕組みを解き明かした最新の研究をやさしくご紹介します。
そもそも「脳のインスリン抵抗性」ってなに?
インスリンという言葉は、糖尿病でよく聞くかもしれません。血液の中の糖を細胞に取り込ませる、体にとってとても大切なホルモンです。このインスリンが効きにくくなった状態を「インスリン抵抗性」と呼びます。
実はインスリンは、血糖の調整だけでなく、脳の中でも神経の働きを支える大事な役割を持っています。ところが脳でインスリンが効きにくくなると、神経がうまく働かなくなり、記憶や考える力が落ちてしまうと考えられています。これが「脳のインスリン抵抗性」です。
これまでも、インスリン抵抗性は認知機能(記憶や判断の力)が落ちる危険因子だと知られていました。そして睡眠時無呼吸が中等症〜重症の方は、このインスリン抵抗性が起きやすいこともわかっています。では、睡眠時無呼吸の人の「もの忘れ」と脳のインスリン抵抗性は、本当につながっているのでしょうか。それを確かめたのが今回の研究です。
284人を調べてわかったこと
この研究では、284人の睡眠時無呼吸の患者さんを詳しく調べました(Journal of diabetes and its complications, 2026)。
脳のインスリンの効き具合は、神経から出てくる小さな粒(エクソソーム)の中のタンパク質を測ることで評価しました。むずかしい名前ですが「リン酸化IRS-1」というタンパク質で、これが多いほど脳でインスリンが効きにくくなっているサインです。あわせて、体全体のインスリン抵抗性を示す「TyG指数」という値も調べました。
その結果、これらの値が高い人ほど、認知機能が落ちる危険が高いという関係が見つかりました。さらに興味深いのは、実際に成績が悪かった人と強く結びついていたのは、体全体のTyG指数ではなく、脳のインスリン抵抗性を示すタンパク質のほうだったという点です。つまり「もの忘れ」により深く関わっていたのは、体ではなく脳のインスリンの効きにくさだったのです。
このタンパク質で認知機能の低下をどれくらい見分けられるかを示す精度は、0.775〜0.914(1に近いほど正確)と、かなり高い数字でした。
「酸素不足」が脳に効いていた
睡眠時無呼吸のいちばんの問題は、眠っている間に呼吸が止まり、体と脳が何度も酸素不足(低酸素)になることです。
この研究では、その低酸素と「もの忘れ」をつなぐ橋わたし役が、まさに脳のインスリン抵抗性である可能性が示されました。統計の分析では、低酸素が認知機能に与える影響の約8割から、それ以上(79.64〜252.03%)を脳のインスリン抵抗性が説明しうるという結果でした。
数字が100%を超えるのは統計上の幅ですが、少なくとも「息が止まる → 脳が酸素不足になる → 脳でインスリンが効きにくくなる → もの忘れにつながる」という道すじが見えてきた、ということです。あくまで一つの研究による報告ですが、大切な手がかりだと言えます。
体重を減らすと脳のインスリンが元気に
さらにこの研究では、2つの方法を試したときの変化も追いました。ひとつは体重を減らすこと、もうひとつはCPAP(シーパップ)という、寝るときに機械で空気を送って呼吸を助ける治療です。
その結果は少し意外でした。体重を減らした23人では、脳のインスリン抵抗性を示すタンパク質が下がったのに対し、CPAPを行った23人では大きな変化は見られなかったのです。
CPAPは睡眠時無呼吸の治療としてとても大切で、いびきや日中の眠気、心臓への負担をやわらげてくれます。ただ「脳のインスリンの効き」という一点に関しては、体重を減らすほうが良い変化につながった、という報告でした。生活習慣を整えることが、脳を守るうえでも意味を持つのかもしれません。
まとめ——眠りは脳の健康にもつながっている
今回の研究は、睡眠時無呼吸の人の「もの忘れ」の裏に、脳のインスリン抵抗性という仕組みがあることを示しました。そして早めに手を打つ目標として、この脳のインスリン抵抗性が注目されています。
いびきが大きい、夜中に息が止まると言われた、日中とても眠い、最近もの忘れが増えた——こうしたサインは、体からの大事なメッセージかもしれません。眠りの質は、血糖や血圧、そして脳の健康ともつながっています。
岡崎市で内科をお探しの方、睡眠や体調の変化が気になる方は、岡崎ゆうあいクリニックへお気軽にご相談ください。生活習慣のことも含めて、一緒にできることを考えていきましょう。
参考文献
Brain insulin resistance: A link between obstructive sleep apnea and cognitive impairment. Journal of diabetes and its complications, 2026. PMID: 42664811
