慢性疾患コラム

2026.09.08

薬を足す前に。診察室の血圧、実は「本当の値」ではないかも【世界の最新の論文から】

「病院で測ると血圧が高いのに、家で測ると落ち着いている」——そんな経験はありませんか。じつはこれ、けっこう多くの方に起きていることなのです。岡崎で内科クリニックを営む立場からも、日々の診察でよく出会う場面です。

 

この「診察室だけ血圧が高い」という現象には、ちゃんと名前がついています。今日は、2026年に医学雑誌『Clinical and experimental hypertension』で発表された総説論文をもとに、この不思議な血圧の話をやさしく解説していきます。

 

 

「診察室だけ高い血圧」には名前があります

 

すでにお薬で血圧を治療している方のなかに、「診察室で測ると高いのに、診察室の外で測ると正常」という人たちがいます。これを医学の世界では 白衣性コントロール不良高血圧(WUH:White-coat Uncontrolled Hypertension) と呼びます。

 

「白衣性」という名前は、白衣を着た医師や看護師の前だと、緊張して血圧が上がってしまうことに由来しています。病院という場所そのものが、体を少し「戦闘モード」にしてしまうのですね。

 

大切なのは、この状態が「病院で測ったときだけの一時的な数字」だということ。ふだんの生活のなかでの血圧は、じつは落ち着いている——それがWUHの特徴です。だからこそ、診察室の一回の数字だけで「まだ血圧が下がっていない」と判断してしまうと、本当は必要のないお薬を足してしまう危険があるのです。

 

 

3つの測り方には、それぞれ役割がある

 

では、本当の血圧はどうやって見きわめればよいのでしょうか。論文では、血圧の測り方を大きく 3つ に分けて比べています。

 

ひとつめは 診察室血圧測定(OBPM)。病院で測るおなじみの方法です。手軽ですが、さきほどの「白衣性」の影響を受けやすいという弱点があります。

 

ふたつめは 24時間自由行動下血圧測定(ABPM)。腕に小さな機械をつけて、生活しながら一日中、自動で血圧を記録する方法です。夜眠っている間の血圧までわかるので、とても正確です。

 

みっつめは 家庭血圧測定(HBPM)。ご自宅で朝と夜、自分で測る方法です。毎日続けられて、ふだんの本当の血圧を知るのにとても役立ちます。

 

この論文がくり返し強調しているのは、診察室の外での測定(ABPMやHBPM)で確かめることが、診断のカギになるという点です。病院の数字だけを信じず、家や日常の数字と合わせて判断することが、飲みすぎ・治療しすぎを防ぐことにつながります。

 

 

「たかが白衣性」と油断はできません

 

「じゃあ、家で正常なら心配いらないの?」と思うかもしれません。ところが、話はそう単純ではないのです。

 

論文は、WUHの人たちについて、心臓や血管の病気(心血管リスク)や、糖尿病などの代謝の問題(代謝リスク)との関わりを検討しています。診察室だけとはいえ血圧が高く出るという事実は、将来のリスクを完全に無視してよいサインではない、というのがこの研究の見方です。

 

つまりWUHは、「治療しすぎに気をつけるべき状態」であると同時に、「これからも見守っていくべき状態」でもある、という二つの顔を持っているのです。だからこそ論文は、リスクの層別化(一人ひとりの危険度を見きわめること)と、長期的な見守りが大切だと述べています。一度きりの判断で終わらせず、時間をかけて追いかけていく——それがWUHとのつき合い方です。

 

 

これからの血圧管理は「家・病院・クラウド」の連携へ

 

この論文が面白いのは、未来の血圧管理の姿にも触れているところです。著者らは、「家庭・クリニック・クラウド」をつなぐ一体型のモデルを提案しています。

 

イメージとしては、家で測った血圧のデータがクラウドを通じてクリニックと共有され、一人ひとりに合わせたきめ細かい管理ができる、という仕組みです。スマホやデジタル機器を使った新しい見守りの形として、期待が寄せられています。

 

ただし論文は、こうした最新の発想(心と体をモデル化する研究や、デジタルツインを使ったシミュレーションなど)については、まだ研究段階の考え方であり、実際の医療で使うには今後の検証が必要だと、慎重に念を押しています。新しい技術に飛びつきすぎない、この誠実な姿勢も大切なところですね。

 

 

参考文献

 

From clinic to home monitoring: Diagnostic strategies and evidence landscape of white-coat uncontrolled hypertension. Clinical and experimental hypertension (New York, N.Y. : 1993), 2026. PMID: 42018662

 

血圧の数字に一喜一憂する前に、まずは「診察室の外での本当の血圧」を知ることが、飲みすぎず・見逃さない管理への第一歩です。岡崎市で内科をお探しの方や、ご家庭での血圧測定について迷っている方は、岡崎ゆうあいクリニックへお気軽にご相談ください。

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