慢性疾患コラム

2026.03.12 慢性疲労症候群

太っていないのに睡眠時無呼吸症候群(SAS)?日本人に多い”顎の小ささ”が引き起こす睡眠の危機

 

「睡眠時無呼吸症候群(睡眠中に呼吸が繰り返し止まる病気)(SAS)は、太った人がなるものでしょう?」

 

そう思っている方は多いと思います。確かに、肥満は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の代表的なリスク因子であることは間違いありません。しかし実は、標準体重の方や、むしろ痩せている方でも睡眠時無呼吸症候群(SAS)を発症するケースが少なくないのです。

 

その大きな原因のひとつが「顎の骨格の形」です。今回は、あまり知られていないこのテーマについて、最新の研究も交えながら丁寧にお話しします。「自分は太っていないから関係ない」と思っていた方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。

 


💤 睡眠時無呼吸症候群(SAS)はどんな病気?

 

まず、睡眠時無呼吸症候群(SAS)についておさらいしておきましょう。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、眠っている間に気道(空気の通り道)が繰り返し塞がり、呼吸が止まったり極端に浅くなったりする状態が続く病気です。医学的には、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(無呼吸低呼吸指数:AHI)が5回以上の場合に診断されます。

 

主な症状としては、大きないびき・起床時の頭痛・日中の強い眠気・集中力の低下・夜中に何度も目が覚めるなどが挙げられますが、自分では気づかないことも非常に多く、家族や同居者に「呼吸が止まっていた」と指摘されて初めて受診される方も多くいらっしゃいます。

 

日本における睡眠時無呼吸症候群(SAS)の有病率は、成人男性の約3〜7%、成人女性の約2〜5%と推計されており、潜在患者を含めると全国に300万人以上いるとも言われています。しかしそのうち適切な治療を受けているのは、まだごく一部にとどまっています。

 


🦷 なぜ「顎の形」が問題になるの?

 

気道は、口・鼻・喉・食道へと続く空気の通り道ですが、中でものど(咽頭)の部分は周囲を筋肉と軟部組織に囲まれており、構造的に狭くなりやすいという特徴があります。

眠っている間は、全身の筋肉と同様に、のど周りの筋肉もリラックスして緩みます。この状態で気道が元々狭ければ、舌や軟口蓋(口蓋の奥の柔らかい部分)が重力で落ち込み、気道を塞いでしまいます。これが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の基本的なメカニズムです。

 

そして、気道の広さに直接影響するのが「顎の骨格の形」なのです。特に以下のような骨格的特徴を持つ方は、体重とは無関係に気道が狭くなりやすいとされています。

 

〈睡眠時無呼吸症候群(SAS)リスクを高める顎の特徴〉

  • 下顎後退(下の顎が後ろに引っ込んでいる、いわゆる”引っ込み顎”の状態)
  • 小顎(全体的にあごが小さい状態)
  • 上顎の狭窄(上の歯並びが全体的に狭くアーチが小さい状態)
  • 舌骨の低位(舌の根元近くにある舌骨が通常より下方に位置する状態)
  • 軟口蓋の肥厚・延長(口の奥の柔らかい部分が厚く垂れ下がった状態)
  •  

これらの特徴があると、あごの骨格そのものが気道を物理的に狭める構造を作ってしまいます。このような「骨格性の気道狭窄」は、体重を減らしても根本的には解決しないため、痩せている方でも症状が出続ける原因になります。

 


🔬 最新論文が明らかにした「顎の形と睡眠時無呼吸症候群(SAS)重症度」の関係

2024年11月、歯科・口腔科学の国際医学誌『Dentistry Journal(デンティストリー・ジャーナル)』に、非常に注目すべき研究が掲載されました(Nishimura ら, Dentistry Journal, 2024; 12(12): 374)。

 

✅ 研究の概要

この研究は、肥満ではない(体格指数:25未満)成人男性の睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者44名を対象に、顔と顎の骨格の比率(頭部X線規格写真(セファロ)による計測)と、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の重症度との関係を詳細に分析したものです。

患者さんは無呼吸低呼吸指数(AHI:1時間あたりの呼吸停止・低下回数)の値によって、

  • 軽症群(AHIが5以上15未満):19名
  • 中等症群(AHIが15以上30未満):15名
  • 重症群(AHIが30以上):10名

の3グループに分類されました。

 

✅ 研究の新しい試み:「顔・顎の横方向の比率」に注目

これまでの研究の多くは、顎の縦方向の長さや角度を中心に分析していましたが、この研究では新たに**「水平方向(横向き)の顎の比率」(GoMe/SN比:下顎の横の長さと頭蓋底の長さの比率)**という新しい指標を導入したことが特徴です。

 

✅ 研究結果:横方向の顎の比率が重症度に関係していた

解析の結果、水平方向の顎の比率(GoMe/SN比)は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の軽症群・中等症群・重症群の間で有意に異なっていたことが明らかになりました。つまり、下顎が頭蓋底に対して相対的に短い(横方向に小さい)ほど、肥満がなくても睡眠時無呼吸症候群(SAS)が重症化しやすいという関係が示されたのです。

この発見は、体型ではなく「顔・顎の骨格のバランス」が非肥満の睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者において重症度を左右する重要な因子である可能性を強く示唆するものです。

 

✅ この研究が意味すること

研究チームは「体格に依存しない骨格的な比率指標の導入は、非肥満患者における睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断・重症度評価に新たな視点をもたらす可能性がある」と結論づけています。

 


🌏 日本人・アジア人は特にリスクが高い

実はこのテーマは、日本人にとって特別に重要な意味を持っています。

欧米人と比べたとき、日本人を含むアジア人は顎が小さく・後退しやすい骨格的傾向があることが複数の研究で指摘されています。中国人と欧米人の睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者を比較した研究では、同じ体格であってもアジア人のほうが上顎・下顎ともに有意に小さく、下顎後退の程度がより強いことが示されています。

 

韓国人の睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者1,226名を対象にした大規模研究では、患者の57.2%が骨格的に下顎が後退した「2級骨格(下顎後退型)」であり、さらに54.0%が「過開咬型(縦方向に顎が開きすぎる骨格)」であったことが報告されています。これらの骨格的特徴は、日本人にも共通して多く見られます。

 

つまり、日本人は欧米人と同じ体重・体格であっても、骨格的な気道の狭さという観点からは、より高いリスクを持っていると言えるのです。

 


⚠️ こんな方は要注意!”顎の骨格型”睡眠時無呼吸症候群(SAS)のサイン

以下の特徴に心当たりがある方は、体重に関係なく睡眠時無呼吸症候群(SAS)のリスクがある可能性があります。ぜひチェックしてみてください。

 

〈骨格・顔の特徴〉

  • 顎が小さい・引っ込んでいると言われたことがある
  • 出っ歯・受け口・歯並びが悪い(特に上下の咬み合わせがずれている)
  • 首が短い・太い
  • 扁桃腺が大きいと言われたことがある
  •  

〈睡眠・生活の症状〉

  • 大きないびきをかく(家族に指摘されたことがある)
  • 朝起きると頭が痛い・口が渇いている
  • 昼間に強い眠気があり、会議や運転中にうとうとしてしまう
  • 夜中に何度も目が覚める・トイレに起きる
  • 記憶力・集中力が低下したと感じる

これらの症状が複数当てはまる場合は、体型に関係なく一度医療機関への相談をお勧めします。

 


🏥 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断と治療について

 

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の確定診断には、**終夜睡眠ポリグラフ検査(睡眠中の脳波・呼吸・血中酸素飽和度・体の動きなどを一夜かけて記録する検査)**が必要です。自宅で行える簡易型の検査装置もあり、まずはそちらから始めることも可能です。

 

治療の中心は、**持続陽圧呼吸療法(CPAP:気道に持続的に空気圧をかけて気道の閉塞を防ぐ治療機器を用いる治療)ですが、顎の骨格が原因の場合は口腔内装置(マウスピース)による下顎前進療法(下顎を前方に固定することで気道を広げる方法)**が有効なケースも多くあります。また、重篤な骨格的問題がある場合は、顎の外科手術(上下顎骨切り術など)が根本的な解決策になることもあります。

るのにいびきがひどいのはなぜだろう」「朝起きても疲れが取れない」…そのようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。骨格が原因の睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、正しく診断すれば適切な治療につなげることができます。

 

岡崎ゆうあいクリニックにご相談ください。

 


📚 参考文献:Nishimura T, et al. Evaluating Craniofacial Morphology Ratios as Predictors of Obstructive Sleep Apnea Severity in Non-Obese Adult Males. Dentistry Journal. 2024; 12(12): 374. Finke C, et al. Craniofacial risk factors for obstructive sleep apnea—systematic review and meta-analysis. Journal of Sleep Research. 2024; 33(1): e14004.

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