慢性疾患コラム

2026.09.08

つらい記憶は、体のサインで先読みできる?

つらい出来事や事故、災害などを体験したあと、そのショックが長く続いてしまうことがあります。これを「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と呼びます。実は、こうした心の不調を「早めに見つける」ための研究が、いま世界で進んでいます。

 

今回ご紹介するのは、ヨーロッパの専門誌に2026年に掲載された研究です。心の状態を測るアンケートと、心臓の「心拍のゆらぎ」を組み合わせると、将来のPTSDの症状をある程度予測できるという内容でした。岡崎で内科クリニックを営む立場から見ても、とても興味深い報告です。今日はこの研究を、できるだけやさしくご紹介します。

 

 

「心拍のゆらぎ」って何のこと?

 

私たちの心臓は、規則正しく「トクトク」と打っているように感じますが、実は一拍ごとに、ほんの少しずつ間隔が変わっています。この「ゆらぎ」のことを、専門的には心拍変動(しんぱくへんどう、HRV)と呼びます。

 

このゆらぎは、体を緊張させる神経(交感神経)と、体をリラックスさせる神経(副交感神経)のバランスで決まります。つまり、心拍のゆらぎを見ると、その人の自律神経の状態、いわば「体のストレスへの向き合い方」が読み取れるのです。

 

この研究では、いやな映像などを見てもらっているときの心拍のゆらぎを記録し、心の状態を測る目印のひとつとして使いました。血液検査や特別な機械がなくても測れるので、たくさんの人に応用しやすいのが特長です。

 

 

どんな研究だったの?

 

研究に参加したのは、176人の大学生でした。全員、なんらかのつらい出来事を経験したことのある人たちです。

 

参加者には、いくつかのアンケートに答えてもらいました。内容は、①強い恐怖で体が固まってしまう「凍りつき反応」があるか、②ものごとを前向きに考えられるか、③今どんな気分か(明るい気分・いやな気分)、④ストレスへの対処のしかた、⑤子どものころにつらい体験(虐待など)がなかったか、といったものです。あわせて、先ほどの心拍のゆらぎも測りました。

 

そして、PTSDの症状の重さを「PCL-5」という質問票で調べました。ポイントは、最初に一度(T1)調べただけでなく、18か月後(T2)にもう一度調べたことです。つまり「今の状態」だけでなく、「1年半後にどうなっているか」まで追いかけたのです。

 

 

いちばん大事だったのは「今のいやな気分」

 

たくさんのデータを、コンピューターの学習技術(機械学習)を使って分析しました。その結果、最初の時点でも18か月後でも、PTSDの症状をもっとも強く予測していたのは「ネガティブな気分(いやな気分・不安や落ち込み)」の強さだった、と報告されています。

 

意外に思われるかもしれません。「生まれつきの性格」や「昔のつらい体験」よりも、今この瞬間に感じている気分が、将来の心の状態を映し出す大きな手がかりだったのです。

 

もちろん、それ以外の要素も関係していました。研究では、①強い恐怖で体が固まる「凍りつき反応」、②子どものころのつらい体験、③ストレスへの対処のしかた、なども、くり返し重要な予測の目印になっていた、とされています。「今の気分」を軸に、いくつかの要素が重なって影響していたわけです。

 

 

この研究から、私たちが受け取れること

 

この研究はまだ研究段階のもので、「アンケートと心拍を測れば病気がわかる」と決めつけられるものではありません。参加者も学生さんが中心で、これからさらに検証が必要です。

 

それでも、大切なヒントがあります。それは、特別な検査でなくても、「今の気分」や「体の反応(心拍のゆらぎ)」といった身近な情報から、心の不調のサインを早めにつかめる可能性があるということです。

 

「なんだか気分が晴れない」「動悸がして落ち着かない」といった小さな変化は、体からのメッセージかもしれません。早めに気づくことは、大きな不調を防ぐ第一歩になります。眠れない、動悸がする、気分が沈む――こうした症状は、心の問題だけでなく、甲状腺や貧血など体の病気が隠れていることもあります。だからこそ、まずは内科で体全体を確かめることに意味があります。

 

気になる症状があるとき、「何科に行けばいいのかわからない」という方も多いと思います。岡崎市の内科クリニックとして、当院ではまず体調やストレスのお話をゆっくりうかがい、必要な検査や次の一歩を一緒に考えます。岡崎市で内科をお探しの方は、岡崎ゆうあいクリニックへ、どうぞお気軽にご相談ください。

 

 

参考文献

 

Predicting longitudinal post-traumatic stress disorder symptoms using psychological measures and heart rate variability: a machine-learning approach. European Journal of Psychotraumatology. 2026. PMID: 42703625.

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