2026.09.10 脂質代謝異常
【世界の最新論文から】脳の血管の狭まりで認知力低下が1.5倍という報告
脳卒中や、その一歩手前とも言われる「一過性脳虚血発作(TIA、脳の血のめぐりが一時的に悪くなる発作)」を経験したあと、「なんだか、もの忘れが増えた気がする」と感じる方は少なくありません。岡崎で内科クリニックを営む立場からも、患者さんやご家族からよく聞くお悩みです。
今回は、その「もの忘れ」と、脳の中の血管の状態との関係を大人数で調べた、2026年の新しい論文をご紹介します。少しむずかしそうなテーマですが、できるだけやさしい言葉でお伝えします。
「頭の中の血管の狭まり」とは何でしょう
私たちの脳には、栄養と酸素を運ぶ細い動脈がはりめぐらされています。年齢や生活習慣の影響で、この血管の内側がだんだん狭くなってしまうことがあります。これを、専門的には「頭蓋内動脈狭窄(ずがいないどうみゃくきょうさく、ICAS)」と呼びます。
今回の論文では、血管が50%以上せまくなっている状態を「狭まりあり」と定義しました。血管が半分以上ふさがっている、とイメージしてください。この狭まりは、脳卒中を起こした方にとても多くみられます。
これまで、この血管の狭まりが「その場での脳卒中の原因になる」ことは知られていました。しかし、「1年後の頭のはたらき(認知機能)にまで影響するのか」は、はっきりわかっていませんでした。
1261人を1年間追いかけた大きな研究
この研究は、中国の大きな脳卒中登録データをもとに行われました。発症から7日以内の脳卒中・TIAの患者さんのうち、脳の血管の画像検査を受け、さらに12か月後(1年後)に頭のはたらきのテストを受けた1261人が対象です。
頭のはたらきは「MoCA(モカ)」という検査で測りました。これは記憶・注意・言葉などを点数にするテストで、この研究では23点未満を「認知機能の低下あり」としました。
大切なのは、研究者が「血管の狭まり以外の影響」をていねいに取り除いて計算した点です。年齢や生活習慣、脳の細い血管の傷み、首の血管の狭まり、脳卒中の重症度、もともとの頭のはたらきなど、たくさんの条件をそろえたうえで比べました。つまり、「血管の狭まりそのものの影響」だけを取り出して調べたわけです。
わかったこと ―― 認知機能の低下が約1.5倍
結果はこうでした。脳の血管に狭まりがある人は、狭まりがない人にくらべて、1年後に認知機能が低下している割合が高かったのです。
条件をすべてそろえて計算しても、血管の狭まりがある人は、1年後の認知機能低下の起こりやすさが約1.5倍(オッズ比1.524、95%信頼区間1.068〜2.176、p=0.020)という報告でした。ほかの要因では説明しきれない、独立した関係が残っていた、ということです。
そしてもう一つ興味深い発見があります。頭のはたらきの中でも、とくに影響が出ていたのは「記憶(思い出す力、recall)」でした(β=−0.182、p=0.001)。注意や言葉など、ほかの分野にははっきりした関係がみられなかったのに、記憶の力だけが弱まりやすかったのです。血管の狭まりが、記憶に関わる脳の場所に静かに影響している可能性が考えられます。
わたしたちにできること
この研究は「血管が狭いと必ずもの忘れになる」と決めつけるものではありません。あくまで「関係がみられた」という報告であり、原因のすべてが解明されたわけではないので、そこは冷静に受け止めたいところです。
とはいえ、脳の血管の狭まりの背景には、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙といった、ふだんの生活と深くつながる要因があります。これらを整えることは、脳卒中の再発を防ぐだけでなく、1年後・数年後の「頭のはたらき」を守ることにもつながると考えられます。血圧やコレステロールの管理、禁煙、そして気になる症状を早めに相談することは、地味に見えて大きな一歩です。
脳卒中やTIAのあとの体調、もの忘れの不安、血圧やコレステロールの数値など、気になることがあれば、岡崎市の内科クリニックである岡崎ゆうあいクリニックへどうぞお気軽にご相談ください。ひとつずつ、一緒に整えていきましょう。
参考文献
Association of intracranial atherosclerotic stenosis with 1-year cognitive impairment after acute ischemic stroke or transient ischemic attack: a nationwide prospective cohort study. Clinical and Experimental Hypertension (New York, N.Y.: 1993), 2026. PMID: 42298744.
